百人一首の恋の歌(43首)
出典の歌集で「恋」の部に収められた歌で、百人一首のなかで最も多いテーマです。
人に知られないよう秘める「忍ぶ恋」(40番・41番・89番)、来ない人を待ち続ける恋(21番・97番)、一夜を過ごした翌朝の別れ(52番・80番)など、恋の始まりから終わりまでのさまざまな場面が詠まれています。
実際の恋のやりとりで贈られた歌だけでなく、歌合などで「忍ぶ恋」のような題を与えられて詠んだ歌も多く含まれています。
恋の歌の一覧
- 第3番柿本人麻呂二字決まり「あし」あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む山鳥の垂れ下がった尾のように長い長い秋の夜を、私はひとりで寝るのだろうか。
- 第13番陽成院二字決まり「つく」筑波嶺の 峰より落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる筑波山の峰から落ちるみなの川が積もって淵となるように、私の恋も積もり積もって深い淵となった。
- 第14番河原左大臣二字決まり「みち」陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし われならなくに陸奥のしのぶもじずりの乱れ模様のように、私の心が乱れはじめたのは誰のせいか。私のせいではないのに。
- 第18番藤原敏行朝臣一字決まり「す」住の江の 岸に寄る波 よるさへや 夢の通ひ路 人目よくらむ住の江の岸に寄る波の「よる」ではないが、夜だけでなく夢の通い路でさえ、あの人は人目を避けるのだろうか。
- 第19番伊勢四字決まり「なにはが」難波潟 短き蘆の ふしの間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや難波潟の短い蘆の、その節と節のあいだほどの短い間さえ逢わずに、この世を過ごせとおっしゃるのか。
- 第20番元良親王二字決まり「わび」わびぬれば 今はた同じ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふこれほど思い悩んだ今となっては、身を滅ぼしても同じこと。難波の澪標ではないが、身を尽くしてもあなたに逢いたい。
- 第21番素性法師三字決まり「いまこ」今来むと いひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな「すぐに行く」とあなたが言ったばかりに、長月の夜を待ち明かして、とうとう有明の月を見てしまった。
- 第25番三条右大臣三字決まり「なにし」名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人に知られで くるよしもがな「逢坂」「さねかづら」という名を負っているのなら、人に知られず来てくれる手立てがあってほしいものだ。
- 第27番中納言兼輔三字決まり「みかの」みかの原 わきて流るる いづみ川 いつ見きとてか 恋しかるらむみかの原を分けて湧き流れるいづみ川ではないが、いつ見たというので、こんなにも恋しいのだろう。
- 第30番壬生忠岑三字決まり「ありあ」有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし有明の月がそっけなく見えたあの別れ以来、暁ほどつらいものはなくなった。
- 第38番右近三字決まり「わすら」忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな忘れられる我が身のことは何とも思わない。ただ、神に誓ったあの人の命が惜しまれてならない。
- 第39番参議等三字決まり「あさぢ」浅茅生の 小野の篠原 忍ぶれど あまりてなどか 人の恋しき浅茅の生えた小野の篠原ではないが、じっと忍んできた。それでもどうしてこんなにあの人が恋しいのか。
- 第40番平兼盛二字決まり「しの」忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで隠していたのに顔色に出てしまった私の恋。「物思いでもしているのか」と人が尋ねるほどに。
- 第41番壬生忠見二字決まり「こひ」恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか恋をしているという私の噂がもう立ってしまった。誰にも知られぬよう、ひそかに思いはじめたばかりなのに。
- 第42番清原元輔四字決まり「ちぎりき」契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは約束しましたね。互いに涙で濡れた袖を絞りながら、末の松山を波が越すことがないように、決して心変わりはしないと。
- 第43番権中納言敦忠二字決まり「あひ」逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり逢って契りを交わした後の今の思いに比べれば、逢う前の物思いなど無いに等しかった。
- 第44番中納言朝忠三字決まり「あふこ」逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらましいっそ逢うことが絶えてなかったなら、あの人のつれなさも我が身の不遇も恨まずにすんだだろうに。
- 第45番謙徳公三字決まり「あはれ」あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな「気の毒に」と言ってくれる人も思い浮かばぬまま、私はむなしく死んでゆくのだろう。
- 第46番曾禰好忠二字決まり「ゆら」由良の門を 渡る舟人 かぢを絶え ゆくへも知らぬ 恋の道かな由良の海峡を渡る舟人が櫂を失って漂うように、行方も知れない恋の道であることよ。
- 第48番源重之三字決まり「かぜを」風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな風が激しいので岩に打ちつける波が砕けるように、私ひとりだけが心を砕いて物思いにふけるこの頃だ。
- 第49番大中臣能宣朝臣三字決まり「みかき」みかきもり 衛士のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ 物をこそ思へ御垣を守る衛士のたく火が夜は燃え昼は消えるように、私の恋の思いも夜は燃え、昼は消え入りそうになる。
- 第50番藤原義孝六字決まり「きみがためを」君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかなあなたのためなら惜しくないと思っていた命までも、逢えた今は長くあってほしいと思うようになった。
- 第51番藤原実方朝臣二字決まり「かく」かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひをこんなに思っているとさえ言えない。伊吹山のさしも草のように燃える私の思いを、あなたは知るまい。
- 第52番藤原道信朝臣二字決まり「あけ」明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな夜が明ければまた日は暮れ、そしてまた逢えるとわかってはいても、やはり恨めしい明け方であることよ。
- 第53番右大将道綱母三字決まり「なげき」嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る嘆きながらひとりで寝る夜が明けるまでの間が、どれほど長いものか、あなたにはおわかりでしょうか。
- 第54番儀同三司母三字決まり「わすれ」忘れじの ゆく末までは かたければ 今日を限りの 命ともがな「忘れまい」というお言葉が末永く続くとは限らないので、いっそ今日を限りの命であってほしい。
- 第56番和泉式部三字決まり「あらざ」あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがなまもなく死んでゆく私が、あの世への思い出に、せめてもう一度あなたに逢いたい。
- 第58番大弐三位三字決まり「ありま」有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする有馬山に近い猪名の笹原が風に鳴るように、「そうよ」と言いたい。私があなたを忘れるものですか。
- 第59番赤染衛門二字決まり「やす」やすらはで 寝なましものを さ夜更けて かたぶくまでの 月を見しかなためらわずに寝てしまえばよかった。待ちくたびれて、夜更けに西へ傾くまでの月を見てしまった。
- 第63番左京大夫道雅三字決まり「いまは」今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで いふよしもがな今はただ「思いを断とう」とだけ、人づてでなく直接あなたに言う手立てがあればよいのに。
- 第65番相模二字決まり「うら」恨みわび ほさぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ恨む気力も失せ、涙で乾く間もない袖さえ惜しいのに、それ以上に恋のせいで朽ちてゆく評判が惜しい。
- 第72番祐子内親王家紀伊二字決まり「おと」音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の ぬれもこそすれ評判の高い高師の浜のあだ波には心をかけまい。袖が濡れては困るように、浮気な人の噂で泣かされてはたまらない。
- 第74番源俊頼朝臣二字決まり「うか」憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものをつれない人が私になびくようにと祈ったのに、初瀬の山おろしよ、これほど激しく吹けとまでは祈らなかったのに。
- 第77番崇徳院一字決まり「せ」瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ流れが速く岩にせき止められた急流が、また一つになるように、いま別れてもいつかきっと逢おうと思う。
- 第80番待賢門院堀河三字決まり「ながか」長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は ものをこそ思へ末永く変わらぬかどうか、あなたの心はわからない。この黒髪が乱れるように、今朝の私の心も乱れている。
- 第82番道因法師二字決まり「おも」思ひわび さても命は あるものを 憂きに堪へぬは 涙なりけり思い悩みながらも命はまだあるというのに、つらさに耐えきれずにこぼれるのは涙であったよ。
- 第85番俊恵法師二字決まり「よも」夜もすがら 物思ふころは 明けやらで 閨のひまさへ つれなかりけり一晩中物思いに沈むこの頃は、夜がなかなか明けきらず、寝室の隙間さえつれなく思われる。
- 第86番西行法師三字決まり「なげけ」嘆けとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かな「嘆け」と月が思わせるのだろうか。そうではないのに、月のせいにしてこぼれる私の涙よ。
- 第88番皇嘉門院別当四字決まり「なにはえ」難波江の 蘆のかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき難波江の蘆の刈り根の一節のような、たった一夜の契りのために、身を尽くして恋い続けよというのか。
- 第89番式子内親王二字決まり「たま」玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする我が命よ、絶えるなら絶えてしまえ。生きながらえると、秘めた思いを隠しとおす力が弱ってしまうから。
- 第90番殷富門院大輔二字決まり「みせ」見せばやな 雄島のあまの 袖だにも ぬれにぞぬれし 色は変はらずお見せしたいものだ。涙に濡れても色の変わらぬ雄島の漁師の袖とは違い、私の袖は血の涙で色が変わってしまった。
- 第92番二条院讃岐三字決まり「わがそ」わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の 人こそ知らね 乾く間もなし私の袖は、引き潮のときにも姿を見せない沖の石のように、人は知るまいが乾く間もなく濡れている。
- 第97番権中納言定家二字決まり「こぬ」来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ来ない人を待つ、その松帆の浦の夕なぎに焼く藻塩のように、私の身も恋い焦がれている。